2019年11月9日、『白銀の墟 玄の月』第三、四巻の発売日。
その日は発売日発表時から終日予定を空けており準備万端。
なのに、本屋に行けない…行きたくない…。
重い腰を上げ、夕方頃にやっとこさ手に入れたものの今度は読めない…読みたくない…。
読み始めたら終わってしまう…。
これこそまさに終わりの始まり…。
まさか自分の人生で”終わりの始まり”なんて漫画か映画でしか聞いたことがないような瞬間が訪れることになるとは。
そんなテンションでその日の深夜、ようやく第三巻の表紙をめくったのでした。
!注意!
ここから先は『白銀の墟 玄の月』全巻について、特にネタバレ考慮なく感想書き進めてまいります。
ご留意の上、読み進めていただければ幸いです。
感想・十三章 泰麒の真意、阿選の心情
”驍宗様が王です”
(小野)主上…!
阿選の麾下である恵棟が州宰になったことに悶々とする項梁。
読めない泰麒の考え…まさか”新王阿選”こそが真実なのではないか…。
項梁の悶々は読者の悶々。
それをのっけから晴らしてくれました…!
しかも、過酷な状況故に超冷徹に敵味方を区別する泰麒が我らが李斎と項梁を味方判定。
嬉しい…。李斎に聞かせてやりたい…。
李斎の忠誠、ちゃんと報われてるよ…!
『黄昏の岸 暁の天』から本作に至るまで、李斎は『月の影 影の海』の陽子を彷彿とさせる四面楚歌状態。
いまだに泰麒の行方も安否も本意も知らず不安が募る一方で精神的にきついだけでなく、本人は全国的に手配されている謀反人だし、泰麒が同行していないことでやっと掴めそうな味方からも徐々に不審がられている、とどめに前巻ラストで知らされた驍宗死亡説。
もうほんと泰麒…項梁に聞かせた別行動の意図、あのとき李斎に言ってあげて…!と思わずにいられません。
場面は移って阿選へ。
諸管の傀儡化についても種明かし。
”鳩のようななにか”は、次蟾(じせん)という人の魂魄を抜く妖魔でした。
で、次蟾に魂魄を抜かれた人間は呪符である程度支配できるようになると。
妖魔…な、なるほど…全然思い当たらなかった…。
そして次第に阿選の心情も明らかになりはじめます。
これまで人物像の掴めない、良く分からないキャラクターだった阿選の、実は物凄く人間くさい内情!
物語が更に、深みと面白さを増していきます。
感想・十四章 李斎、驍宗の生存を知る
キターーー!!!
やはり老安で亡くなった武将は驍宗とは異なる人物でした!
そして少しずつ、少しずつ、李斎の周りに頼れる人々が繋がって、僅かにではありますが、道が拓けていくような兆しが…。
感想・十五章 正頼とまさかの広瀬
李斎の周りに信頼できる人々が集まり始めたように、泰麒の周りにも徐々に信頼できる人の輪が。
『風の万里 黎明の空』もそうでしたが、こうやって一つ一つの細い糸が繋がっていき、やがて大きなうねりになっていくの、最高ですよね…。
そして頼もしすぎる耶利は黄朱と判明。
耶利と項梁を伴って再び六寝に忍びこむ泰麒。
そして待望の正頼登場…!
にもかかわらず、あまりに酷い有様。
かつての平和な時代の正頼と泰麒のやり取りが脳裏に浮かび、残酷過ぎるギャップに涙が止まりません。
正頼ほんと死なないで…生きていて…。
そしてここでまさかの広瀬…!
広瀬…まさか広瀬が再び出てくるとは…。
泰麒のなかでそこまで大きな存在だったのかと、個人的に衝撃が大きかったシーンです。
なんか…広瀬…良かったな…。
仁獣・麒麟であるにもかかわらず、自ら人を殺めんとするところまで追いつめられている泰麒の窮状が辛いです。
蓬山で仙子と追いかけっこをして、蓉可や女仙に「隠して隠して~」とやっていた頃に戻して…。
感想・十六章 再び物語が交差し始める
五章以降、泰麒側と李斎側の描写で章が別れるようになってから初めて同じ章に双方が描かれています。
前半は白圭宮。
前章で正頼の居所が暴かれた事態を受けてついに阿選が動き、泰麒の元に自らやってきます。
阿選に強いられ、無理やり叩頭し誓約する泰麒。
この頭を下げる際、泰麒は魔性の子で”祟り”に遭った人々を続々と思い浮かべます。
広瀬同様、蓬莱での出来事は泰麒の中に色濃く残っているんだな…。
当たり前だけれど、『魔性の子』と本作が繋がっているんだなと強く感じました。
後半は李斎側へ。
葆葉はやはり味方で、牙門観は李斎陣の頼もしい拠点となりそう。
前巻を読んだ際には、もしかしてここに驍宗が匿われていたりしないかなと思いもしましたが、そう簡単には事は運びません。
けれど、確かに可能性という名の希望が繋がっていきます。
がんばれ李斎ー!
今回は戴が舞台の話ですが、李斎が四面楚歌な感じが『月の影』とか、そんな中で細い糸が寄り集まっていく感じが『風の万里』を思い起こさせ熱い。
そして章のラストはまた舞台が白圭宮へと移り、阿選が朝議に。
ここの挿絵!
玉座に座っているのが驍宗ではないのが惜しいですが、隣に佇む泰麒が凛々しく神々しいです…。
そしてついに巌趙が泰麒の元へ!
感想・十七章 ついに驍宗登場!
一方、李斎もついに霜元と再会し、既知の人々の所在が明らかになっていきます。
”驍宗さえ見つかれば、諸王の助けを求めることができる”
『黄昏の岸 暁の天』で李斎が取り付けた約束ですが、これを思うとやはり、十二国記シリーズというのは戴のこの一連の騒動を決着させるための物語、という側面が確かにあるのだなと感じました。
なんといっても始まりは『月の影』ではなく『魔性の子』ですからね…。
そして李斎たちはついに、驍宗の真の居所に思い当たります。
場面は移って阿選へ。
函養山での驍宗襲撃について、初めて阿選目線で描写されます。
そして、ついについについについに!
驍宗様キターーーーーー!!
感想・十八章 泰麒、李斎、驍宗、阿選、四者がそれぞれ動き出す
これまでのエピソードが撚り合わさり、驍宗救出の算段がついていきます。
この盛り上がりこそ真骨頂、面白過ぎる…。
そしてついに驍宗目線で物語が綴られます。
縦抗の中で驍宗が足を接いだ際に上げたとされる苦悶の叫び。
脳内で藤原啓治さんの声で再現されました。声優さんて偉大だなあ。
李斎たちが函養山探索に向けて動き始め、驍宗の元には騶虞が…
って、ここへ来て阿選が動き出す…!
阿選、余計なことするなーー!
このまま李斎たちがすんなり驍宗を見つけてすんなりハッピーエンド迎えてくれーー!
感情が主上にかき乱されます。
そして恵棟が暇を願いに泰麒の元へ。
ここへ来て恵棟の株がどんどん高騰していきます…!
自身の地位や処遇を顧みず、自信の信ずるところを訴え、その言葉が泰麒に届き、泰麒の信を得ていく姿…恵棟株、ストップ高…!
泰麒の周りにも信頼できる人と権力が集い始めます。
感想・十九章 驍宗、翼を手に入れる
ここからついに第四巻。
驍宗が黄海に初めて入ったエピソードが明かされます。
これ時期的に言って珠晶の時ですよね。
黄海で驍宗と更夜が出会っていたことがあったりしたら激アツ…!
そして驍宗が泰麒に思いを馳せていて涙。
ついに騶虞を手に入れます。
白圭宮では張運が自滅の道へ。
また友尚が阿選に遣わされ函養山へ向かいます。
感想・二十章 ついに驍宗と李斎が合流!
阿選の計略で恵棟が文州候に。
とは言え恵棟は既に泰麒側、そして李斎たちも文州を目指しているのでむしろ歓迎するところ(と、この章を読んでいたころは思っていた…)。
岨康では友尚軍と土匪が衝突し、李斎が援護に。
烏衡とまみえた建中が驍宗に遭遇。
烏衡の勝手と非道に内側から崩れ始める友尚軍…と思いきや、友尚は軍を立て直し、一転窮地にたたされる土匪。
でもこのパターンは知ってるぞ…
来るぞ…
キターーー!
李斎キターーー!
そしてさらに、李斎の元部下も合流!
そしてついに、ついに李斎・霜元が驍宗と合流…!!!
驍宗の現状は痛々しいけれど、王に起こることはすべて王が大王朝を築くために必要なことだと思っています。(乗り越えられた場合のみですが)
『月の影』での陽子の試練も、雁での斡由の乱も、奏が一家全員で王の役割を果たしていることも。
だから驍宗にとっても、この7年は必要だったのではないでしょうか。
幾度となく語られた、”驍宗は苛烈に過ぎる”は、確かに驍宗の弱点だったのではないでしょうか。
友尚も阿選を見切って李斎軍へ。
恵棟や友尚のような心ある麾下が、だからこそギリギリまで阿選への期待と義を通した人達が、いよいよもうここまでだと見切りをつけるのが辛い。
そして李斎たちは、友尚から泰麒が白圭宮にいることを知らされます。
感想・二十一章 泰麒、ピンチ
烏衡が白圭宮へ戻り、阿選にも驍宗と李斎の生存が知らされます。
もう…面白すぎて目眩がする…。
すごいですよね。
18年、上がりに上がったハードルを遥かに高く超えてきてくれる…。
泰麒の欺瞞をとっくに見破っていた阿選。
阿選と泰麒が真っ向から対立し、泰麒が窮地に立たされます。
感想・二十二章 不安
阿選が派遣した空行師に襲われる驍宗一行。
癸魯、酆都、朽桟、仲間が次々と倒れていく…。
この辺りで突如猛烈な不安に襲われます。
残り少ないページ数、端々から潰されていく希望と活路。
驍宗は捕らえられ、頼りの綱の恵棟は魂魄を抜かれ…。
まさか、まさかとは思うけれど悲しい結末になったりしないですよね…!?
そして戦の中で飛燕もまた失われます。
泰麒と李斎を引き合わせ、縁を繋いだ飛燕…。
人懐っこく、戦場に連れて行くには不憫なほど気性が優しいと言われた飛燕…。
飛燕は李斎によく尽くしてくれたし、それはきっと李斎が心をかけたからですよね…。
飛燕に限らず、騎獣や使令って考えれば考えるほどロマンがある…(だって使令は麒麟亡きあと躯を食べて力をその身に取り込むというけれど、これまでの物語で出てきた麒麟と使令の関係を見ていると、力を手に入れた使令がそのまま野生に戻っていくとはとても思えない)。
終わるんですか?終わるんですか?
残りのページ数でここから挽回可能なんですか?
最悪なのは泰麒が自殺して泰王を(ひいては阿選も)道連れにし、すべてを次王に託すことだけど…そんなことにはならないですよね…!?
感想・二十三章 体調が悪い(自分の)
牙門観襲撃、葆葉も所在不明。
主上、ハッピーエンドにする気ありますか???
驍宗処刑の手筈が整えられ、泰麒までもが諦めムード。とらまで雁に戻して…。
李斎たちも全員、驍宗の死を避けられないものとして”いかにマシなものとするか”にシフト。
うそうそうそうそやめてやめてやめて。
頭では分かってるんです。
まだ項梁と英章と国帑がある。希望はある。
でもそんな希望を打ち砕くようにことごとく総悲観。
18年間待っていたのはそんな結末じゃない。
心拍数と涙と吐き気がやばい。
感想・二十四章 転変
もう、この章の前半は全員一矢報いてやるモードで総悲観で。
英章…まだ英章がいる…と思いつつも、まさか、まさかという思いが拭えず。
やっと泰麒が驍宗と相見え、”蒿里”と呼ばれて、
そして
転変した…。
そこからはもう、英章、臥信…と怒涛のクライマックス。
思えば『風の海 迷宮の岸』で驍宗を迎えに行ったときも、『魔性の子』で自身が麒麟だと思いだしたときも、戴の物語の転換点にあるのは麒麟の”転変”でした。
さすが小野主上、粋なことなさる…。
感想・二十五章 明幟
思いがけず雁主従・六太と尚隆登場!
もう他国のキャラクターの出番は諦めていたので、嬉しいサプライズ!
花影、正頼、去思も生存確定。
諸国の支援が受けられることが決定し、一安心。
泰麒の角、使令も戻っているとのこと。
ラスト、いつものあれで、阿選が討たれ驍宗が玉座に帰還したことがわかります。
国の復興はここからのスタートになりますが、ついに王と麒麟が揃って国を治めることができるのですね。
早く雁と慶と戴のお茶会シーンが読みたいです。
感想・さいごに
最後の数章、もう感情が揺さぶられに揺さぶられ、読了したときはもうただただ脱力…。という感じでした。
ただ、そんな中で思ったことは、
今回でシリーズ完結ではなかった!!
ということ。
終わりじゃないですね!
続きますね!!!
でもこれから十二国記シリーズは一体どうなってしまうのでしょうか。
今回、柳については一切触れられなかったですし、敵ではなかったものの狼燦の天を試したいという気持ちは本物だと思うので、この辺りが本編を通じて今後描かれていくのではと感じています。
とりあえず来年短編集が出るのが確定していてよかった。
それが分かっているということがどれほど精神を安定させてくれるか…ありがとう新潮社。
本音を言えばもうひたすら『冬栄』とか『書簡』とか『帰山』みたいな話ばっかりを読んで余生を過ごしたい。
※本ページは後ほど追記予定です
『白銀の墟 玄の月』第一、二巻感想はこちら→★
言わずと知れた十二国記級の骨太ファンタジー!こちらもオススメです!
十二国記好きの方に是非読んでいただきたいオススメ漫画はこちらにまとめています。